M&Aの目的とは

皆さんこんにちは。弁護士髙砂美貴子です。

最近、大企業のみならず中小企業の間でもM&Aが盛んにおこなわれるようになっています。M&Aとは、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略ですが、我が国では、会社法の定める組織再編(合併、会社分割)に加え、株式譲渡や事業譲渡を含む各種手法による事業の引継ぎ(譲渡・譲受)をいいます。

ところが、M&Aというとその手続やマッチングにばかりフォーカスしたために、M&A成立後、事業成長どころか、取引先や従業員の離反を招き立ち往生するなどのトラブルが少なくありません。

このようなM&Aの失敗を防ぎ、譲渡会社と譲受会社いずれもがM&Aの目的を達成し、狙ったシナジー効果を得られるようにするにはどうすればよいのでしょうか。その大前提として、そもそもM&Aの目的とは何でしょうか。本稿では、M&Aの根本であるその目的について、改めて考えてみたいと思います。

この記事で分かること

  • M&Aの目的
  • PMI推進における役割
  • 優先順位の決め方

M&Aの目的

 そもそもM&Aの目的とは何でしょうか。

 「持続型」とは、経営不振や後継者不在等の課題をM&Aにより解決し、起業・事業の存続を維持し、地域経済や従業員雇用を維持することを目的とするものです。

「成長型」とは、シナジーの創出や事業転換により、起業・事業の成長・発展を目的とするものです。

 このように、M&Aの目的はいちおう2つに分類できますが、M&Aの目的には多かれ少なかれ事業の成長発展が含まれますので、実際には両者は重なり合うことが多いと思われます。

 ここで、M&Aの実施目的を実施時期別に見てみましょう(第2-6-16図)。

 次の図は、M&Aの実施時期を2009年以前、2010~2014年、2015年以降に分類し、それぞれの時期にM&Aを実施した目的について調査したものです。

 これをみると、どの年代でも「売上・市場シェアの拡大」が最多であり、次いで「事業エリアの拡大」を目的とするケースが多いことから、付加価値向上を企図してM&Aを行う企業が多いことがうかがえます。他方、実施時期の違いに着目すると、「2009年以前」では「経営不振企業の救済」を挙げる企業の割合が高く、「2015年以降」では「新事業展開・異業種への参入」を挙げる企業の割合が高くなっていることが読み取れます。

※出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/html/b2_6_2_3.html

 譲渡側、譲受側それぞれの思惑、目的があると思いますが、実際にM&Aを検討するにあたり、今一度その目的を明確に言語化してみることをお勧めします。また、「持続型」が当初の目的であったとしても、M&A後の中長期的な成長を目的とした「成長型」をも視野に入れるべきですが、その際、譲受側は譲渡側の強みや課題を理解し、譲渡側と一体になって共に成長することを目指すことが重要です。

 なお、事業再生や業績不振の企業を買収する場合、特に、小規模企業の場合事業のかじ取りを経営者に依存しているケースが多いので、前経営者が抜けた後も安定的に事業を継続できるように、体制整備については特に慎重に取り組む必要があると思います。

PMI推進における役割

 このようなM&Aの目的を達成するため、PMI(Post Merger Integration)を効果的に推進する必要があります。PMIとは、M&A成立後の一定期間内(一年程度)に行う経営統合作業(狭義)をいいますが、M&A成立前の取組と、狭義のPMIの後の継続的な取組を含めたプロセス全般を指して「(広義)PMI」といいます。

 もっとも、限られた人員で円滑にPMIを推進するためには、PMIを共同で推進するチームを組成し、役割を定めて取り組むべきです。

 具体的には、①重要意思決定、②企画・推進、③実務作業の3つの役割が必要であり、適材適所で人員を配置します。

①「重要意思決定」とは、譲受側の経営者を中心にPMIに関する重要意思決定を行い、PMIプロセス全般について責任を負います。

「企画・推進」とは、PMIの取組全体を把握し、各取り組みの企画、推進、管理(進捗管理、タスク管理)等を行います。また、必要に応じて、譲受側・譲渡側においてPMI推進チームを組成します。

③「実務作業」とは、PMIに関する具体的な実務作業等を行います。必要に応じて、取組テーマごとにチーム(分科会)を組成します。

上記①~③に関し、必要に応じて、士業等専門家やコンサルタントの支援を受けることも検討します。

 もっとも、中小M&Aは少ない人員で進めなければならない場合が大半ですので(ブログ「中小M&Aの特徴」参照)、経営者がすべての役割を行うこともありますし、一人の社員が複数の役割を兼任する場合も多くみられます。それでも人的リソースは不足しがちですので、取り組むべきタスクには優先順位をつけ、限られた人員及び資金を適切に配分する必要があります。

 この優先順位をつけるには、(ⅰ)重要度(M&Aの目的・戦略との関連性。当該タスクを実行した場合としなかった場合で、経営に与える影響とその度合い)、(ⅱ)緊急性(リスクが顕在化するまでに想定される期間。実行しなかった場合、リスク要因が発生する確率)、(ⅲ)実行可能性(実行に係るコスト(人員、資金等)、効果が出るまでの期間、実行において必要な人材や協力を得るべき関係者の有無)を考慮するとよいでしょう。また、M&A成立プロセスで実施するデューデリジェンス(DD)の結果も参考にするとよいと思われます。

 また、M&A成立直後は、譲渡側の従業員の人心を掌握しきれていませんので、M&Aの成果がなかなか出ないと、「このM&Aは無駄だったのではないか」などネガティブな空気が充満し、従業員のモチベーションが低下しがちです。そのため、従業員らにM&A成立の成果と意義を感じてもらうため、PMIの集中実施期(M&A成立後1年経過以内)には、比較的簡単に実行でき、早期に成果を得られやすい取組(クイック・ヒット)を優先的に行うとよいと思われます。従業員が目に見える形で、すぐに効果を実感できる成功体験を積み重ねることで、従業員のモチベーションが上がり、PMIにポジティブな気持ちで取り組む雰囲気を醸成することができます。

最後に

 以上のように、企業の成長戦略やEXITの一環としてM&Aを検討されている企業は、M&Aを通じて何を達成したいのか、ぜひ一度明確に言語化してみてください。そうすることで、PMIも含めた長丁場で方針がブレることを回避でき、効果的な戦略立案、実行体制の組成が可能となります。

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