中小PMIの全体像~まずは全体を鳥瞰しよう~

皆さんこんにちは。弁護士髙砂美貴子です。

本ブログでたびたび言及しているところではありますが、将来、事業引継ぎ手段としてのM&Aを検討している中小企業にとって、PMI(Post Merger Integration、経営統合)が重要であることは常に強調しておきたいところです。

すなわち、M&A成立後一定期間内に行う経営統合作業(狭義のPMI)のみならず、M&A成立前の取組(プレPMI)から、M&A成立後の集中期を乗り越えた後の継続的取組も含めたプロセス全般(広義のPMI)は、譲受側がM&Aを実施した究極の目的であるシナジー効果を存分に発揮させるために必要不可欠なのです。M&Aを成立させること自体が目的なのではなく、複数の企業又は事業が統合することで、単独での事業運営よりも一層大きな社会的経済的価値が生み出される相乗効果(シナジー効果)が発揮されて初めて、M&A成立の目標が達成されたといえるのです。

 本稿では、このような重要な意義をもつPMIの全体像を概観したいと思います。

この記事で分かること

  • 中小PMIの全体像
  • PMIの各ステップ、取り組み内容

PMIの全体像

一般的に、PMIは、M&A成立後初日(DAY.1)から一定期間に集中的に行われる統合作業を指すことが多いです。しかし、M&A成立後、円滑にPMIプロセスに移行するためには、M&A成立前、もっと言えば、M&Aを検討し始めた段階からPMIに向けた準備を進めることが重要です。なお、PMIは、短期的な売上増加など財務的利益の実現を志向するというよりは、事業統合によって永続的な事業継続や、中長期にわたる持続可能な成長を目指して数年単位で継続的に取り組む活動であることを忘れてはなりません。

「事務局説明資料」p.3(中企庁財務課、令和3年10月5日)<4D6963726F736F667420506F776572506F696E74202D208E9696B18BC790E096BE8E9197BF5F91E63189F18FAC88CF88F589EF2073657494C52E70707478> (meti.go.jp)

M&A初期検討

トップ面談の前後を通じて最も重要な作業は、M&Aの目的を明確化し、M&Aにおける「成功」を定義することです。

 すなわち、「そもそもM&Aで何を目指すのか」、「M&Aを通じてどのような姿になっていたいのか」を言語化し、その目的の実現に向けて具体的なM&Aを戦略を策定・精査することが重要です。M&A、PMIプロセスを進める間には、譲渡側・譲受側は様々な課題や困難に遭遇します。その困難に直面したとき、常に立ち返るべき原点を明確にすることは非常に重要です

 また、「何が実現できればM&Aが成功したといえるのか」、いわゆる「成功」の定義をしっかり明確化しておくことも重要です。M&Aにおける成功を定義することは、今後数年にわたり取り組んでいくPMIプロセスの中で、自社の取組が当初の目標からずれていないか、ずれていたとしても早期に軌道修正するために必要な指針となります。

 M&Aの「成功」は企業によって様々ですので一概にはいえないのですが、譲渡側・譲受側双方にとっての成功を目指すべきでしょう。M&Aが成立し事業を譲り受けたからそれで終わり、ということではなく、譲渡側の経営改善や成長のために追加投資するなど、共存・共栄を目指す精神というのは必要だと思います。

 なお、M&Aにおいて、誰に事業を譲渡するか、譲渡側と譲受側のマッチングの問題は非常に重要です。M&A初期検討の段階で、譲渡側と譲受側がM&Aの目的と成功の定義をしっかり言語化しておけば、かなり交渉が進んだ段階でミスマッチに気づき交渉を破断にせざるを得ないなどの二度手間が回避できますし、PMI段階でのリカバリーが困難で苦しむなどという事態を避けられます。

プレPMI(M&A成立前)

M&A成立後、速やかにPMIに着手するためには、M&A成立前の段階からM&Aの目的の実現に必要となる取組を意識し、デューデリジェンス(DD)等の調査を通じて譲渡側に関する情報を可能な限り収集することが重要です。

もっとも、DDは、主に書面での情報確認が主となりますし、時間も限られているので譲渡側の事業すべてを把握することは不可能です。そのため、クロージング後、現場に入ってはじめて分かることも少なくありません。

とはいえ、クロージング前の段階では、何が把握できていないのか、クロージング後にどのような対応が必要かを整理し、「M&A成立後のPMI集中実施期において何をするのか」について予めアクションプランを作成しておくとよいでしょう。

PMI(M&A成立後の集中実施期)

  • PMI推進体制の構築

中小M&Aでは、譲受側・譲渡側いずれもマンパワーに余裕がなく、通常業務に加えてPMIを実施しなければなりません。しかも、PMIはM&A成立から100日以内を目途に実行すべきであると考えられています。

そのような状況で円滑にPMIを進めるには、「誰がどのようにPMIを進めるのか」、すなわちPMI推進に求められる役割を整理し、限られた人的リソースを効果的に活用できるよう役割分担しながら進めることが重要です

また、PMIにおける検討事項は多岐にわたりますので、必要に応じて外部リソースを活用することも検討すべきかと思います。

  • PMIの取組の実行

M&A成立直後は、譲渡側の経営が不安定なことも多いので、速やかにPMIに着手する必要があります。具体的には、譲受側はプレPMIの段階で整理しておいたアクションプランリストに従い、譲渡側について詳細な現状把握を進めつつ、新たに把握した課題への対応も含めて取組方針を検討し、計画的な事項と効果検証を行う必要があります。

 もっとも、中小企業のマンパワーや資金力には限りがあるので、全ての課題やリスクに対応しきれないことがほとんどかと思います。そこで、M&A成立後概ね1年間を目途に、どの事項への対応が必要かリストアップし、優先順位をつけて集中的に取り組むことが現実的な対応かと思います。

ポストPMI

PMI集中実施期での取組結果を踏まえ、次の目標に向けてPMI取組方針の見直しを行い、継続的にPDCAを実行します。

PMIプロセスは、場合によっては数年単位で実行することもあります。M&A成立後1年の集中実施期だけの取組で終わらせるのではなく、より強固で持続可能な成長発展のために、中長期的な取り組みとして継続することが重要です。

また、M&A初期検討やプレPMIで都度見なおしてきたM&Aの目標やPMIの進行状況等に応じて、グループ組織体制の見直しも必要に応じて検討します。例えば、株式譲渡で子会社となった会社(譲渡側)との間で、その後数年間をかけてすり合わせを行い、更に進んで、譲受側が譲渡側を吸収合併するパターンも考えられます。

最後に

このように、M&Aは成立させて終わりではなく、膨大な手間と時間をかけてPMIプロセスを実施することで真の成功を手にできるのです。これから事業引継ぎ手段としてM&Aを検討される事業者様、既にM&Aに取り組まれている事業者様はぜひこのことをお心に留めて頂き、ご自身の目標を達成していただきたいと思います。

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