皆さんこんにちは。弁護士髙砂美貴子です。
最近、顧問先から、「某弁護士会から『弁護士法23条の2に基づく照会書』という書面が届いたのですが、回答しなければならないのでしょうか」というご相談を複数寄せられました。取引先が多数にのぼると、自社が直接の当事者とならなくとも、その取引先が紛争に巻き込まれる可能性は当然上昇します。そこで、本日はこの問題について説明しようと思います。
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この記事で分かること
- ①弁護士法23条の2所定照会(以下、「弁護士会照会」という)に対して回答する義務を負うのか。
- ②(仮に、弁護士会照会への回答義務を負うとしても)回答を拒否した場合、不法行為に基づく損害賠償請求を受けるなど、何等かの法的な制裁を受けるのか。
弁護士会照会とは
弁護士会照会制度は、弁護士が受任事件について訴訟資料を収集し、事実を調査する等その職務活動を円滑に遂行するための制度的手段として、昭和26年の弁護士法一部改正により新設されました。検察官や警察のように、国家的権力に基づく証拠収集手段を持たない弁護士にとって、弁護士会照会制度は極めて重要な証拠収集手段であり、実務上一般的に活用されています。根拠規定が弁護士法23条の2であることから、「23条照会」などと略称しておりますので、本稿でも以下、「23条照会」とよぶことにします。
平成14年4月1日に改正施行された弁護士法により新設された弁護士法人にも、23条照会の利用は認められています(弁護士法第30条の21)。
(報告の請求)
弁護士法第23条の2
弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があった場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
照会権を有しているのはあくまで弁護士会であり、個々の弁護士又は弁護士法人(以下、「弁護士等」といいます)ではないことに留意する必要があります。弁護士等は照会申出権を持っているにすぎず、弁護士等はその申出権に基づき、照会権を有する弁護士会が発した照会に対する回答を、弁護士会を経由して得ることができるのです。
弁護士等は所属の弁護士会に対し、照会の必要性・相当性を記載した申出書を提出します。弁護士会は、弁護士法のほか「照会手続申出規則」「照会申出審査基準細則」に基づいて、弁護士等より提出された申出書の形式面、内容を審査します。弁護士会は、申出書に記載された照会の必要性・相当性を審査し、必要性・相当性を満たすと判断したもののみを、各照会先へ送付します。
問題の所在
弁護士会照会については、弁護士法に弁護士会の権限を定める形式規程があるにとどまり、照会先がこれに回答する義務を負うか否については、明文規定がありません。
また、回答義務が認められるとしても、照会先がかかる義務を免れる場合があるか否か、回答を拒否した場合、照会先が不法行為責任を負うか否かも明らかではありません。
裁判例
この問題について答えた裁判例が、大阪高判平成19年1月30日9日(平成19年度主要民事判例解説120頁)です。
- 事案
Xらは、金融機関Yにおいて、Yの店舗において開設された預金口座開設者の氏名・住所等について23条照会を受けながらその解答をせず、あるいは遅滞して回答したこと、及び預金名義人である特定の個人の住所・電話番号について裁判所による調査嘱託を受けながらその回答をしなかったことが、Xらに対する関係で違法な行為として不法行為になると主張し、Yに対して損害賠償を求めた事案。
- 判旨
上記事案において、
- 裁判所による調査嘱託を受けた民事訴訟法186条所定の公私の団体は、裁判所に対し、これに応じる公的な義務を負う。
- 23条照会及び裁判所による調査嘱託を受けた金融機関は、照会及び調査を嘱託された情報が個人の情報であっても、その者の同意の有無にかかわらず、当然に回答義務を負う。
- 金融機関Yが、23条照会に対していったん拒否したこと並びに同照会及び調査嘱託に対して回答しなかったことは、原則的には、上記照会の申出をした弁護士の依頼者及び上記調査嘱託の上申をした者の個々の権利を侵害するものではなく、また、同人らの法的に保護された利益を侵害するものとまではいえず、民法709条の「他人の権利又は法的に保護される利益を侵害した」との要件には当たらない。
- 本裁判例の意義
本件は、金融機関の有する顧客情報について、個人情報保護や金融機関の業務上の秘密保護の観点からの制約を認めず、顧客の同意の有無にかかわらず、当然に回答義務を負うと判示しました。このことは、金融機関に与える影響も大きいと思いますので、その射程範囲については十分な検討が必要と思われます。
まとめ
以上のとおり、23条照会に対する回答を拒否したからといって直ちに損害賠償請求がなされる可能性は低く、また、これが認容される蓋然性も決して高いとは言い切れません。
しかし、23条照会は弁護士にとって極めて重要な証拠収集手段であり、ひいては裁判制度を側面から支える重要性を有するともいえます。23条照会を受けた事業者、個人の皆様におかれましては、23条照会制度の重要性に鑑み、速やかにこれに回答するようにしてください。