皆さんこんにちは。弁護士髙砂美貴子です。
最近、大企業のみならず中小企業の間でもM&Aが盛んにおこなわれるようになっています。M&Aとは、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略称ですが、我が国では、会社法の定める組織再編(合併、会社分割)に加え、株式譲渡や事業譲渡を含む各種手法による事業の引継ぎ(譲渡・譲受)をいいます。
「中小企業白書2018」293頁
(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap6_web.pdf)
(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap6_web.pdf)
親族でも従業員でもない、社外の第三者に対する事業承継手段としてM&Aが採用されることが増えていることはよく知られているところです(第三者承継)。
我が国企業のM&Aの件数は、「中小企業白書2018」305頁(04Hakusyo_part2_chap6_web.pdf (meti.go.jp))に掲載されています。これによれば、国内企業のM&Aは2017年に3,000件を 超え、過去最高となっています。これはあくまで公表されている件数ではありますが、我が国におけるM&Aは活発化しているものと推測されます。
「中小企業白書2018」305頁
(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap6_web.pdf)
他方、中小企業のM&Aの実施状況は公表されていないことも多く、データの制約も大きいことから、中小企業のM&A仲介を手掛ける 東証一部上場の3社((株)日本M&Aセンター、(株)ストライク、M&Aキャピタルパートナー ズ(株))の成約組数について集計した図が「中小企業白書2018」306頁に掲載されています(図2-6-7)。この統計資料を見ると、中小企業のM&A成約件数は、 2012年に比べて2017年では3倍超となっていることが読み取れます。もっとも、中小企業 のM&Aにおいてはこのような仲介会社を介さないケースも多く見られますが、全体として増加傾向にあるものと考えて差し支えないものと思われます。
「中小企業白書2018」306頁
(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap6_web.pdf)
そこで、これから事業承継の一手段としてM&Aを検討するにあたり、まずは、中小企業の事業引継ぎを行う手段としてのM&A(以下、「中小M&A」といいます)の特徴を把握しておくのも有意義かと思います。本稿では、中小M&Aの特徴について概観します。
目次 非表示
中小M&Aの形態
令和4年3月に中小企業庁が公表した「中小M&Aガイドライン~中小M&Aを成功に導くために」(以下、「PMIガイドライン」といいます)によれば、中小M&Aの実施形態は、事業譲渡(41.0%)と株式譲渡(40.8%)が同程度であり、これら2タイプが8割以上を占めているとしています。もっとも、株式譲渡により一旦は子会社化したのち、ある程度の期間をおいてから合併するなど、他の手法と組み合わせて行うことも多いと考えられます。
事業譲渡 | 株式譲渡 | |
内容 | 譲渡側が譲受側に対し、自社の事業を譲渡する手法 | 譲渡側の株主(多くの場合、経営者)が譲受側に対し、譲渡側の株式を譲渡する手法 |
長所 | 譲渡対象を選択し、譲渡側の法人格から切り離せる。 簿外債務・偶発的債務を背負いこむリスクを遮断しやすい。 | 手続が比較的シンプル |
短 所 | 承継対象財産の特定、対抗要件の具備、許認可の取得等が必要になり、割と煩雑。 | 譲渡側の法人格に変動がないため、簿外債務や偶発的債務のリスクが比較的高くなりやすく、より詳細なDDが実施される傾向。 |
譲渡側及び譲受側の属性
譲渡側 | 譲受側 | |
M&Aの譲渡価格 | 2000万円以下だけで57%を占める。 500万円以下は30%。 | |
売上規模 | 譲受側に対する売上規模が1/5程度は36.9%、1/2以下だと84% | 1億円以下が58%、個人・個人事業主が25% |
当事者の属性 | 同業種の競合他社が多い。対象地域は、同一または近接エリア(同一市区町村、同一都道府県、近隣都道府県)が多い。 |
売手・買手の探し方
「2022年版中小企業白書」(HTML版)
(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b1_1_7.html)
最後に
このように、中小企業の事業引継ぎ方法としてのM&Aには、いくつからの特徴があります。これから第三者承継としてのM&Aを検討される場合、このようなデータも参考にされながら、今後の方針を検討していただければと存じます。