インボイス制度の基礎①

皆さん、こんにちは。弁護士髙砂美貴子です。

本年(令和5年)10月のインボイス制度開始を控え、前回に引き続きインボイス制度の基礎について解説しようと思います。今回は、インボイス制度導入の前提である、消費税制度とその問題点、インボイス制度土入の背景事情について解説します。

消費税法の仕組み

  • 法律の規定

現行消費税法は、原則としてすべての事業者を消費税納税義務者としています(消費税法(以下「法」といいます)5条1項)。事業者は、課税資産の譲渡等及び特定課税仕入で相手方から受領する消費税を納税します(法28条1項、29条参照)。

もっとも、当該事業者が受領する消費税全額を納税する仕組みとすると、当該事業者が他の取引先に対して支払っている消費税について、二重払いとなってしまいます。

  • 事例検討

 文書だけですと分かりにくいので、具体的な事例で考えてみましょう。例えば、製造業者A、卸売業者B、小売業者C、消費者Dという取引を考えます(なお、説明の便宜上、地方消費税額についても消費税額に含めて説明します)。

  • 製造業者A社が卸売業者B社に対し、1,000円(税込み1,100円)で製品甲を販売する。
  • 卸売業者Bが小売業者Cに対して2,000円(税込み2,200円)で製品甲を販売する
  • 小売業者Cが消費者Dに対して、3,000円(税込み3,300円)で製品甲を販売する。

この事例において、事業者が得る消費税のすべてを納税する仕組みとすると、製造業者A社は100円、卸売業者B社は200円、小売業者C社は300円の合計600円を消費税として納税することになります。

しかし、実際は、最終的な消費者Dが負担すべき消費税額は、商流の最終段階で消費者Dが支払う3000円に対する消費税額300円のみです。そうすると、実際に納入される消費税額の合計は、600円―300円=300円多く納税されることになってしまうのです。これが二重課税という問題です。

  • 消費税法の問題点

この二重課税の問題をクリアするために、「仕入税額控除(法30条1項)」という計算方法が採用されています。

 この「仕入税額控除」という計算方法を用いると、「課税仕入」(法2条1項12号、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供…を受けること。いわゆる、会計上の売上に対応する「仕入」よりも広い概念であることに注意が必要。原価のみならず、販管費や固定資産の取得にかかる支出等も「課税仕入」に該当する)に係る消費税額が納税額から控除されます。

 前記3(2)の事例でいうと、各当事者は以下の消費税額を納入することになります。この合計額は、最終的な消費者Dが負担すべき消費税額300円と一致します。

  • 製造業者Aは、卸売業者Bから受領した消費税100円
  • 卸売業者B社は100円(卸売業者Bが小売業者Cから受領した消費税200円―卸売業者Bが製造業者Aに支払った消費税100円=100円)
  • 小売業者Cは100円(小売業者Cが消費者Dから受領した消費税300円―小売業者Cが卸売業者Bに支払った消費税200円=100円)
  • 事業者免税制度

事業者のうち、基準期間(課税期間の前前年)にかかる課税売上高が1000万円以下である者については、消費税の納税義務が免除されます(法9条1項、同法2条1項14号)。また、新たに開業した個人事業者又は新たに設立された法人のように、当該課税期間について基準期間における課税売上高がない場合又は基準期間がない場合には、納税義務が免除されます。(消費税法基本通達(以下「通達」という)1-4-6)。但し、例外的に課税される場合がありますので、詳細は通達を確認してください(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/01/04.htm)。

これは、小規模事業者の事務負担や税務執行コストへの配慮から、一定規模以下の事業者については消費税の納税義務を免除する特例措置です。以下、かかる事業者免税制度により、消費税の納税を免除された次号者を、「免税事業者」とよぶことにします。

インボイス制度導入の背景

 現行法においては、仕入税額控除は、免税事業者からの課税仕入についても適用されます。そのため、免税事業者との取引について、仕入れ税額控除がなされるという矛盾が生じてしまいます。

 先ほどの事例に即して説明します。

  • 製造業者Aが免税事業者である卸売業者Bに対して、1000円(税込1100円)で製品甲を販売
  • 免税事業者である卸売業者Bが小売業者Cに対して、2000円(税込2200円)で製品甲を販売
  • 小売業者Cが消費者Dに対して、3000円(税込3300円)で製品甲を販売

この事例において、製造業者Aの消費税の納税額は100円です。しかし、卸売業者Bは免税事業者なので、Bの消費税納税額はゼロです。小売業者Cの消費税納税額は、免税事業者Cからの課税仕入について仕入税額控除を受けることとなりますので、その納税額は100円(消費者Dから受領した消費税300円―卸売業者Bに支払った消費税200円=100円)となります。

 この結果、A~Cの納税額は合計200円となり、これは、最終的な消費者Dが負担すべき消費税額300円より100円少なくなってしまいます。また、免税事業者である卸売業者Cは、本来納税されるべき消費税額100円(小売業者Cから受領した消費税200円―製造業者Aに支払った消費税100円=100円)を自分のものとすることになってしまいます。

  • このような矛盾を是正するための方法は、以下2通りが考えられます。

 (ⅰ)免税事業者である卸売業者B社について、制度上の特典を奪い、消費税を納税させる。

 (ⅱ)小売業者Cが行う仕入税額控除を認めないこととする。

インボイス制度は仕入税額控除の要件を加重するものですので、(ⅱ)の方法に該当するといえます。

 インボイス制度の導入の背景には、このように免税事業者が享受する「益税」に関する問題が存在するのです。

最後に

今回の解説は以上です。少しでも皆様のご参考になれば幸いです。

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