インボイス制度に対するQ&A①

皆さん、こんにちは。弁護士髙砂美貴子です。

本年(令和5年)10月のインボイス制度開始を控え、最近、顧問先企業から様々なご相談が寄せられております。そこで、本稿から数回に分けて、普段、私が特に多くお受けしている質問について解説しようと思います。

なお、令和4年1月19日付で、公正取引委員会より「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(以下、「公取Q&A」という)(https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html)が公表されました。これは、各企業が免税事業者への対応方針を決定するにあたり、実務上頻繁に参照されている資料ですので、ぜひご一読ください。

質問①

「当社の課税仕入先に対して、適格請求書発行事業者(以下、「インボイス事業者」という)として登録するよう促すことは、許されるでしょうか。」

●回答:許されます。

●解説:公取Q&Aは、「課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。」(Q7第6項)としています。

質問②

「当社は、課税売上高が極めて少ない免税事業者と多数の課税仕入れ取引を行っています。これらの課税仕入れ先に対して、インボイス事業者として登録するよう要請し、消費税の納税を求めることは現実的に不可能です。このような場合、当社はどのように対応すればよいでしょうか。」

●回答:当該仕入先に対し、インボイス事業者登録をするよう促すことが原則ですが、それが困難である場合、適法とされる範囲で、消費税相当額を取引対価から減額するよう交渉するとよいでしょう。これに応じてもらえない場合、やむなく取引を終了することも検討します。

●解説:課税仕入れ先にインボイス事業者登録を促しても、課税売上高の少ない免税事業者としては、消費税の納税負担を嫌ってなかなか応じてくれないことが予想されます。そこで、相談者としては、当該仕入先に経過措置(2023年10月1日~2026年9月30日までの属する課税期間において、免税事業者がインボイス事業者となった場合、消費税の納税は2割のみで足りるとする措置)について情報提供し、インボイス事業者となっても一定期間は、消費税の納税負担はそれほど大きくないことを説明し、インボイス事業者登録をしてもらえるよう促すとよいでしょう。

 もっとも、このような情報に感化され、インボイス登録しようとのインセンティブが働くのは、既に課税売上高が1000万円を超過しているか、あるいは数年後には課税事業者になる見込みの事業者、要するに、ある程度業績が好調な事業者に限られるものと思われます。課税売上高が何年も継続して1000万円以下である事業者にとって、わざわざインボイス事業者登録をして、経過措置期間経過後、消費税を満額納付しなければならないというのは、かなり負担が重いです。このような零細事業者が経過措置の存在を知ったところで、わざわざインボイス事業者登録をしようという気持ちになるかどうか、疑問です。

 そこで、相談者としては、免税事業者である課税仕入れ先に対し、当該仕入先が消費税及び地方消費税を納付する必要がないことを理由に、取引対価から消費税及び地方消費税相当額を減額してほしい旨交渉することが考えられます。こうすることで、当該仕入先が免税事業者であるために、仕入れ税額控除の恩恵が受けられないことによる相談者の損失を補填することを目指すのです。

 このように、適法な取引対価の減額交渉をしてもなお、課税仕入れ先が応じてくれない場合、相談者としてはやむなく、当該仕入先との取引を終了することも検討せざるを得ないと思われます。

 公取Q&AのQ7第5項「取引の停止」にもあるとおり、適法な取引対価の減額交渉の末、取引を停止するのであれば、その行為自体は独禁法等に違反することにはならないと思われます。

質問③

インボイス制度実施(令和5年10月1日)以後、新たに取引を開始した課税仕入れ先が免税事業者である場合、当該仕入先に対して消費税・地方消費税相当額を支払わないとすることは違法になるのでしょうか。

●回答:

 適法です。

●解説:

インボイス制度実施後、免税事業者である課税仕入れ先と新規に取引を開始する場合、税抜き価格で取引対価を合意すること自体は、制約されているわけではありません。

公取Q&AのQ6において、「免税事業者からの仕入は仕入税額控除ができないため、免税事業者から仕入れを行う場合は、設定する取引価格が免税事業者を前提としたものであることを、互いに理解しておく必要もある。」、「免税事業者である課税仕入先に対して、『税抜き』や『税別』として価格を設定する場合には、消費税相当額の支払いの有無について、互いに認識の齟齬がないよう」留意する必要があるとされています。

 このような記述に鑑みますと、インボイス制度実施以降、新規に取引を開始した免税事業者に対し、消費税相当額の支払いをしないことも可能であることを前提にしているものと考えられます

質問④

業務委託先が免税事業者である場合、消費税相当額を請求できないように、当社の業務委託契約書のひな型を修正したいです。どのように修正すればよいでしょうか。

●回答:例えば、取引基本契約書のひな型に、以下のような条項を加えることが考えられます。

「第●条(業務委託料)

 1 本業務の委託料(消費税及び地方消費税相当額は含まないものとする。以下、単に「業務委託料」という)は、個別契約ごとに委託者が作成する発注書に記載された請求金額とする。

 2 …

 3 受託者が適格請求書発行事業者(令和5年10月1日施行消費税法第2条1項7号の2に定めるものをいう)であり、同法57 条の4第1項の定めに従い、委託者に対し適格請求書の交付をした場合に限り、受託者は、本条1項に規定する業務委託料に加え、これに対応する消費税及び地方消費税相当額を、委託者に対して請求することができるものとする。 

●解説:質問③にて詳述したとおり、インボイス制度実施以降、免税事業者である課税仕入先との間で新規に取引を開始する場合、税抜き価格で取引対価を合意すること自体は制約されていません。この合意内容を契約条項に落とし込む方法はいろいろありますが、一例として上記のような記載例が考えられます。

 なお、これはあくまで、インボイス制度実施以後、新たに取引先となる課税仕入れ先との間で取り決めることを前提に適法であるといえることに注意が必要です。契約更新等の事情がないにもかかわらず、既存の取引先についても上記のように変更してしまうと、不当な取引対価の減額として、独禁法等に違反するおそれがあります

最後に

今回の解説は以上です。少しでも皆様のご参考になれば幸いです。

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