不動産売買の注意点①~土砂災害警戒区域等にある土地を購入する場合~

皆さんこんにちは。弁護士髙砂美貴子です。

  私が過去に担当した事件を見るまでもなく、地方の比較的大きな地主の方は、大規模な山林や丘陵、高低差のある土地を所有しているケースが少なくありません。このような土地は土砂災害の発生源となりかねないため、通常の土地とは異なり、その利活用や売却その他の処分をする際、特別法の規制を無視することはできません。

また、このような土地を購入する場合も注意が必要です。例えば、新居を建設するための敷地として、傾斜地にある土地一画の購入を検討している方(仮に「Aさん」といいます)がいると仮定しましょう。このAさんが仲介業者から、当該土地の周辺一帯について「土砂災害警戒区域等の指定のための基礎調査の対象地になっている」と説明を受けました。基礎調査の結果、本件土地が土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域に指定された場合、Aさんの新居建築にどのような影響が出るでしょうか。

この問題は、土地の評価額に大きな影響が出るだけではなく、当該土地の利活用が大きく制限されかねません。そこで、本稿では、土砂災害警戒区域等に指定された土地を購入する場合の留意点、土地災害防止法について基本的な部分を解説します。

この記事で分かること

  • 土地災害防止法の規制
  • 土地災害に関する宅建業法の規制

回答

本件土地が土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域(以下、「土砂災害警戒区域等」と総称します)に指定された場合、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(以下「土砂災害防止法」といいます)の規制を受けます。これにより、Aさんが予定していた建物が建築できなくなる可能性が出てきますので、基礎調査の結果を踏まえ、今後、本件土地が土砂災害警戒区域等に指定されるかどうかを確認するとともに、本件土地に建築予定の建物が建築可能か否かを事前に確認する必要があります。その結果次第では、本件土地の購入を断念するという決断も必要になるかもしれません。

土地災害防止法の規制

土砂災害防止法(「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」、以下「法」といいます。 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0000000057)は、土砂災害から国民の生命・身体を保護するため、土砂災害(急傾斜地の崩壊、土石流、地滑り)が発生するおそれのある区域を指定し、区域に応じて、危険の周知、警戒避難体制の整備、特定開発行為の制限、建築物の構造規制、既存住宅の移転促進等の対策等のソフト対策を推進する法律です。

※「土砂災害防止法の概要」(国交省)より抜粋

https://www.mlit.go.jp/river/sabo/dosyahou_review/01/110803_shiryo2.pdf

基礎調査の実施

  • 基礎調査の実施

各都道府県は基本方針に基づき、おおむね5年ごとに基礎調査(急傾斜地の崩壊等のおそれがある土地に関する地形、地質、降水等の状況及び土砂災害の発生の恐れがある土地の利用状況その他の事項に関する調査)を実施します(法4条1項)。

都道府県は、この基礎調査の結果を関係する市町村長に通知するとともに、公表しなければなりません(同法同条2項)。そのため、基礎調査の結果は自治体のホームページ等で確認することができます(例:神奈川県告示図書

https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/sabo/bousai/keikai/kouji.html)。

土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域の指定

都道府県知事は、こうして出された基礎調査の結果を踏まえ、かつ基本指針に基づき、当該土地の区域に応じて、①土砂災害警戒区域又は②土砂災害特別警戒区域に指定します。なお、この指定を行うには、予め関係のある市町村長の意見を聞かなければなりません(同法7条3項、同法9条3項)。

※「土砂災害防止法の概要」(国土交通省)」より抜粋

https://www.mlit.go.jp/river/sabo/dosyahou_review/01/110803_shiryo2.pdf

  • ①土砂災害警戒区域(同法7条1項)
  • 「土砂災害警戒区域」は、急傾斜地の崩壊等が発生した場合には住民等の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域であり、危険を周知し早期避難を実現するため、(ⅰ)市町村地域防災計画への記載(同法8条1項)、(ⅱ)要配慮者利用施設における警戒避難体制整備(同法8条の2)、(ⅲ)土砂災害ハザードマップ等による周知徹底(同法8条3項)等が市町村に義務付けられます。
  • ②土砂災害特別警戒区域
  • 「土砂災害特別警戒区域」は、急傾斜地の崩壊等が発生した場合建築物に損壊が、住民等の生命又は身体に著しい危害が生じる恐れがあると認められる土地の区域で、(ⅰ)特定開発行為(他人のための住宅・宅地分譲・社会福祉施設・学校・医療施設等)に対する許可制(土砂災害防止法10条)、(ⅱ)居室を有する建築物の構造規制(同法24条)、(ⅲ)建築物の移転等の勧告及び支援措置等(同法26条)が義務付けられます

※「土砂災害防止法の概要」(国土交通省)より抜粋

https://www.mlit.go.jp/river/sabo/dosyahou_review/01/110803_shiryo2.pdf

宅建業法の規制

前記1(3)にて詳述したとおり、①土砂災害警戒区域に指定された土地は、他の土地よりも土砂災害発生の危険性が高いエリアであり、さらに②土砂災害特別警戒区域の指定を受けたエリアでは、特定開発行為に関する許可制等様々な規制が課されます。そのため、①②の指定の有無やその規制内容は、当該土地を購入するか否か決断するにあたり、重大な影響を与えます。

そのため、宅建業者は土地の購入希望者に対して、土砂災害警戒区域等の指定の有無及び規制内容について、契約締結に先立ち、売買契約の重要事項として説明する義務を負います(宅地建物取引業法35条1項2号)。

同様の理由から、土砂災害警戒区域等の指定前の段階であっても、基礎調査の結果、土砂災害警戒区域等に相当する地域に対象物件が含まれる場合、その旨を重要事項として説明する必要があります。さらに、対象物件が基礎調査の対象となっていることを宅建業者が認識していた場合、対象物件が基礎調査の対象地に含まれていること、基礎調査の結果によっては、土砂災害警戒区域等の指定を受ける可能性がある旨を説明すべきと考えられます。

まとめ

以上より、土砂災害警戒区域等の指定のための基礎調査の対象となっているのであれば、Aさんが予定していた建物が建築できなくなる可能性が出てきます。そのため、Aさんとしては基礎調査の結果を踏まえ、今後、本件土地が土砂災害警戒区域等に指定されるかどうかを確認するとともに、本件土地に建築予定の建物が建築可能か否かを事前に確認する必要があります。その結果次第では、本件土地の購入を断念するという決断も必要になるかもしれません。

 自然災害が頻発する昨今、地域にもよりますが、急斜面に近い土地や山林を購入しようとされる場合、事前調査をより徹底するようお勧めいたします。

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

弁護士 髙砂美貴子

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