医療機関も破綻する時代!これから開業を考えているドクターに知っておいて頂きたいこと③~医科特有の問題点~

前2回のブログで、ここ数年、病院・診療所の休廃業・解散、倒産が増えていること、クリニックの経営には、「患者数の減少」、「診療報酬点数の低下」、「診療報酬審査の厳格化」の三重苦に加え、措置法26条という税制優遇措置の廃止の可能性というリスクが潜んでいることを解説しました。

そして、診療所の休廃業・解散、倒産が増えていることの背景事情には、医科・歯科特有の事情も存在します。本稿では、医科に特有な事情について解説します。

この記事でわかること

医療機関の休廃業が増加している背景事情、特に医科特有の問題

診療科目によって諸経費が大きく異なる

次の統計資料は、各種の医療機関が当該年度に設備投資としていくら投入したかについて調査したものです。

これを見ると、一般病院は平均2億円超ですが、特定機能病院や子ども病院など、高価な機材や特殊な施工上の工夫を要する場合、必要な設備費用は大きく膨張しています。

一般診療所では、入院設備があるかどうかで大きく差があります。入院設備がある一般診療所の設備投資額は、令和元年度は平均2000万円前後(但し、令和2年度には約半減)、入院設備がない場合は概ね600万円前後です。歯科診療所は、おおむね350万円前後であることが読み取れます。

中央社会保険医療協議会「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告(令和3年11月)」

https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/23_houkoku_iryoukikan.pdf

  • 開業時に必要な設備投資を考える際、特に医科の場合、診療科目によって必要な設備費用はもちろん、ランニングコストが大きくことなることに注意しなければなりません。

例えば、脳神経外科であれば、開業時に高額のMRI(磁気共鳴画像診断装置。磁気を利用し、体の臓器や血管などを撮影する医療機器)を導入する必要があります。相場は、おおよそ8000万円~1億円(税抜)です。MRIは大型の医療機器ですので、床の強度増強工事や配線工事も高額になる傾向があります。MRIは、脳腫瘍や脳血管性疾患などの診断に活用されることが多いですが、神経内科、整形外科、消化器科内科・外科、婦人科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、眼科の診療所や病院でも導入されています。

また、ほとんどの診療科で導入されているX線診療室も高額です。X線は被爆しても自覚症状がないため、遮へい不備により医療従事者や患者が知らぬ間に放射線障害を受けないよう、医療法施行規則は、X線診療室に適正な遮へい設備(一般的に、鉛版の石膏ボードが主流)を設けるよう規定しています。具体的には、X線診療室の画壁の外側で1週間につき1ミリシーベルト(mSv)以下、病院又は診療所内の病室に対しては、3 月間で1.3mSv以下であることが求められ、これを担保する遮へい能力が必要とされています。このような防護機能を備えたX線診療室の防護処理や、X線撮影機器も数百万円単位で費用がかかります。

  • 以上は、設備投資に関する話ですが、ランニングコストはまた別の問題です。

産婦人科であれば、分娩のタイミングはいつ来るかわかりませんから、助産師や看護師を24時間体制で配置する必要がありますし、病室や食堂、入浴室等、多額の初期投資費用がかかります。病床を備えた有床診療所が激減していることからも、入院設備を整えることが開業医にとっていかに負担となっているかが分かります。

逆に、心療内科は、聴診器と心電計、電子カルテがあれば診療できますので、他の診療科と比較して圧倒的に少ない初期費用で開業できます。皮膚科や小児科も、レントゲン設備や他の高額な医療機器を必要としないので、設備投資額を抑えられるでしょう。

医療機関であるかどうかにかかわらず、一般的に、開業資金のうち自己資金割合が高ければ高いほど、開業後の資金繰りが安定し、早期に経営が安定する確率が高まります。金融機関での創業融資審査でも、必要な開業資金のうち何割を自己資金で調達するかを、重要な審査ポイントとしています。より多くの初期設備費用を要する診療科目ほど、自己資金をいかに調達するか、開業後の資金計画を慎重に立案する必要があります。

診療科目によって配慮すべきポイントが異なる

  • また、診療科目によっては、開業場所についても個別の配慮が必要な場合があります。

一般的に、駅前などの人通りの多い場所で、しかも1階であれば効果的に集患できると思われます。

しかし、メンタルクリニックの場合、患者は非常に警戒心が強く、「自分が精神的疾患を抱えていることを知られたくない」、「クリニックに入るところを見られたくない」という気持ちを持っています。そのため、メンタルクリニックを開業するのであれば、むしろ人目につきにくい裏通りにあるビルで、4階以上のフロアにテナントして入るのがベストでしょう。これは、私たち弁護士の法律事務所にも同様の配慮が求められるところです。

  • また、院内動線に関しては、特に、泌尿器科や産婦人科のようにデリケートな病気を診療対象とする場合配慮が必要です。

泌尿器科の場合、性病も治療対象としているケースも多いので、同じ疾患を抱えている者どうしであればともかく、それ以外の人とはあまり顔を合わせたくないと考えていることが多いです。そのため、スペースに余裕があるのであれば、クリニックの入口は共通であるとしても、一般の泌尿器科の患者とは別に、性病患者専用の受付及び待合室を設けるなどの工夫をするとよいでしょう。

同様の配慮は、産婦人科についても必要です。産婦人科に通院する患者の中には、子宮がん等婦人科系の疾患や人工妊娠中絶を目的に来院している女性も含まれています。そのような方は、家族に付き添われた妊婦や出産直後で喜びにあふれた新米ママと同じ空間にいたくない、見るのもつらい場合も多いでしょう。患者のデリケートな心情に配慮し、待合室を別にするとか、診察室に入るときの動線を分けるなどの配慮ができればよりよいでしょう。

ここで述べたことは、いまさら言われるまでもない至極当然のことでしょう。しかし、この当たり前のことに配慮せず、患者の心情に無頓着なために患者数が伸び悩むことも意外に多いのです。「最新式の医療設備を導入し、立地も最高なのに、なぜ患者が増えないのだろう」と悩まれている方は、一度このような点を見直してみてください。

最後に

このように、医療機関の休廃業が増加している背景には、医科特有の事情が存在しています。特に、診療科目の特性上、どうしても高額の医療機器が必要であり、設備投資に多額の資金を要するケースも多いと思います。そのような方々が、安全に開業資金を調達するにはどうすればよいのか、これはまた別の機会に解説したいと思います。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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弁護士 髙砂美貴子

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