皆さんこんにちは。弁護士髙砂美貴子です。
ニュース報道等でほとんど採り上げられないのであまり周知されていないかもしれませんが、病院・診療所の休廃業・解散、倒産が加速度的に増えています。本稿では、病院・診療所の休廃業・解散、倒産について検討してみます。
医療機関の休廃業・解散が増加
以下のデータは、帝国データバンクによる「医療機関の休廃業・解散動向調査」(2021年)です。
※帝国データバンク(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220111.pdf)
- ・「休廃業・解散企業」とは、倒産(法的整理)によるものを除き、特段の手続きを取らずに企業活動が停止した状態の確認(休廃業)、もしくは商業登記等で解散(但し「みなし解散」を除く)を確認した企業の総称
- ・調査時点での休廃業・解散状態を確認したもので、将来的な企業活動の再開を否定するものではない。また、休廃業・解散後に法的整理へ移行した場合は、倒産件数として再集計する事もある
倒産よりも休廃業・解散が圧倒的に多い
倒産ではなく、休廃業・解散という方法で事業を終了させるには、原則として負債がなく健全な財務状況であることが前提となります。
2016 年以降、各年の休廃業・解散件数と倒産件数を比較したデータが以下ですが、2021 年の休廃業・解散は倒産の 17.2 倍(休廃業・解散 567 件、倒産 33 件)となっており、倒産よりも休廃業・解散を選択するケースが圧倒的に多いことが分かります。なお、業態別でみると、病院が 12.0 倍(休廃業・解散 12 件、倒産 1 件)、診療所が 21.4 倍(同 471 件、同 22 件)、歯科医院が 8.4 倍(同 84 件、同 10 件)となり、診療所が突出しているようです。
※帝国データバンク「(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220111.pdf)
帝国データバンクの分析によれば、全国全業種の 2021 年の平均(休廃業・解散件数÷倒産件数の値)が 9.1 倍(休廃業・解散 5 万 4709 件、倒産 6015 件)であることに鑑みると、医療機関がいかに休廃業・解散率の高い業種であるかがわかると思います。これは、医療機関は一般企業と比べて公共要素が強く、景気に左右されにくい業種であることなどから、急激に業績悪化に陥る蓋然性が他業種に比して低いからとしています。これに加え、休廃業するかどうかの決断が早いというのも、当然影響しているでしょう。
法的倒産手続に入った場合の特徴
2017年の医療機関の倒産は25件(内訳:病院2件、診療所13件、歯科医院10件)、負債総額は161億5000万円でした。態様別では「破産」が19件(構成比76.0%)、負債額別では5億円未満の事業者が18件(同72.0%)を占めたほか、業歴別では「20~30年未満」が最多となりました。
なお、法的整理に至った医療機関のうち、病院は民事再生と破産が半々であるのに対し、診療所と歯科医院はその大半が破産を選択していることに注意してください。歯科医院のほとんどは個人事業主であるといわれていますが、法的整理を選択した小規模な診療所や歯科医院のうち、破産を回避して再生を成功させられるのはほんの僅かにすぎないのが現実です。
また、老人福祉事業者の倒産も88件で過去最多となり、2016年(91件)をわずかに下回ったものの、負債総額は129億3400万円で過去最大となりました。負債額別では「1億円未満」が69件(構成比78.4%)、資本金別では「1000 万円未満」が71 件(同81.6%)、業態別では「通所介護」が34 件(同38.6%)を占めるなど、小規模事業者が大半を占めています。超高齢化社会、福祉事業の需要増大が言われて久しいですが、意外にもこのようなデータが出ていることには驚きます。
株式会社帝国データバンク「特別企画:医療機関・老人福祉事業者の倒産動向調査」
(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p180101.pdf)
更に、法的整理に入った時点での負債総額についても、病院の多数が「10億円~30億円未満」であるのに対し、診療所は10億円未満が8割、歯科医院は「1億円未満」が9割となっています。これらのデータから、小規模な診療所や歯科医院では、比較的少額の負債額であっても耐えられるだけの体力がなく、経営破綻のきっかけになりかねないことが読み取れます。
株式会社帝国データバンク「特別企画:医療機関・老人福祉事業者の倒産動向調査」
(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p180101.pdf)
厚生労働省のデータによると、近年、診療所・歯科医院の施設数は増加し続け、競争激化が進む一方、病院の施設数は減少傾向にあると言われています。また、中小企業金融円滑化法の実質的な延長措置(医療法人が対象)の効果などもあり、病院の倒産件数は低水準にありますが、医師・スタッフの人手不足問題は年々深刻化しており、保有する施設(病床)を活用しきれなくなる施設が出てきているといわれています。
最後に
このように、法的整理とまではいかなくとも、休廃業に追い込まれる医療機関は増加の一途をたどっています。「専門職だから、医者だから大丈夫」というわけにはいかなくなってきていることをご理解いただけると思います。
破綻する医療機関が後を絶たない背景事情には様々なものがあるので、また別の記事で紹介したいと思いますが、これから開業を検討されているドクターの皆様におかれましては、このような厳しい現実をしっかり受け止めて、堅実な事業計画を作成して開業に踏み切って頂きたいと思います。病院・クリニックの開業に関するポイントは、また別の記事で解説したいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。