単身者専用との定めのある建物賃貸借契約において、借主が家主に無断で第三者を同居させている場合、家主はこれを理由に賃貸借契約を解除できるか。

 皆さん、こんにちは。弁護士髙砂美貴子です。

 人生100年時代、セカンドインカムとして賃料収入を目当てに、単身者用ワンルームマンションを購入する方が増えていることはよく知られています。賃料相場がコロナ禍前に戻りつつある今日、ワンルームマンションのオーナーから次のような相談が寄せられました。

 

私は単身者専用のワンルームマンションを所有し、賃貸しています。借主との建物賃貸借契約には「単身者専用」と規定しているにもかかわらず、最近、借主Aが家主である私に無断で第三者を同居させていることが分かりました。私の経営方針として、これを認めることはできません。私はAとの賃貸借契約を解除することができますか。また、その際Aに催告をする必要はあるでしょうか。

回答

 賃貸借契約書に居住者やその人数が明確に規定されているのであれば、家主は賃貸借契約を解除できると考えられます。もっとも、家主が催告すれば、借主Aが第三者との同居をやめる可能性があるのであれば、事前に催告をする必要があります。

解説

●単身者用の物件に第三者が同居することの問題点

 一般的に、建物の種類や構造に鑑み、その使用に適した人数は凡そ決まっています。家主としても適正人数での使用を当然予定していますし、物件の使用態様もある程度想定したうえで賃貸します。それにもかかわらず、借主が勝手に第三者を入居させれば、家主の想定した範囲を超えて物件の損傷が進みます。特に、借主が子どもを入居させた場合、物件の痛みはさらに増すでしょう。また、借主が勝手に第三者を同居させれば、家主が居住者の氏名や人数を把握できず、物件の管理に支障をきたすことも容易に推測できます。加えて、同居する人数があまりに多くなれば、騒音や振動により他の借主から苦情が出るおそれもあります。

 このように、借主が家主に無断で第三者を同居させると、様々な支障が生じる可能性があります。

●第三者の無断同居を理由とする契約解除の可否

 (1) 建物賃貸借契約書の条項に、「本マンションは単身者専用につき、入居者は借主1名限りとする」等と明記されて  いれば、借主が無断で第三者を同居させた場合、家主はこれを理由に契約を解除することができます。

 最判昭和43年2月23日は、「(付随的約款は本来、契約締結の目的に必要不可欠のものでないが)右特別の約款の不履行は契約締結の目的の達成に重大な影響を与える」場合、「(付随的)約款の債務は(売買)契約の要素たる債務」に該当するので、その不履行を理由に契約を解除できるとしています。

 単身者用のワンルームマンションは間取りがシンプルで面積も小さく、親族や友人の一時滞在は別として、複数人での継続的居住を予定していません。また、成人の単身者用ですから、子どものいる家庭と比べて室内の痛みや汚損の程度も比較的小さく、維持管理のコストも低廉に抑えられることを前提としています。

それにもかかわらず、借主Aが無断で第三者を同居させれば、室内が想定外に汚損するほか、家主による居住者の管理把握が困難となるなど、賃貸物件の管理に支障をきたします。したがって、「単身者専用」との契約条項があるにもかかわらず、借主Aが無断で第三者を同居させる行為は、本件賃貸借「契約締結の目的の達成に重大な影響を与える」といえるでしょう。

 したがって、家主は借主Aとの賃貸借契約を解除することができると考えます。

(2) 逆に、賃貸借契約書に「単身者専用」との条項がなかった場合、単に借主Aが無断で第三者を同居させただけでは、直ちに用法違反があったとして契約を解除することは難しいといえます。

 もっとも、Aが同居させた人数や居室の使用態様、居室内部の損傷の程度、騒音等に対する苦情の有無等、家主との信頼関係を破壊する事情が認められる場合、家主は用法違反を理由に賃貸借契約を解除できると考えます。

●解除の要件<催告の要否>

(1) そうだとしても、家主が本件賃貸借契約を解除するには、原則として、借主Aに対して同居をやめるよう催告しなければなりません。

(2)最判昭和43年11月21日は、無催告解除を定めた特約条項の有効性について、「催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である」としています。これは、「賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であること」に鑑み、解除権の行使を限定すべきであるとの理由によります。

友人や親族が一時的に滞在した場合のように、借主Aに第三者との同居をやめるよう促せば、Aがこれに応じる可能性のあるケースもあるでしょう。このような場合、家主と借主Aの間の信頼関係は依然維持されていますので、家主としてはまずAに第三者との同居をやめるよう催告をすべきです。Aがこれに応じなかった場合、家主は初めて本件賃貸借契約を解除すればよいのです。

(3)この結論は、賃貸借契約書に無催告解除を認める文言があるか否かで変わらないと考えます。

●まとめ

 以上より、家主はまず借主Aに第三者との同居をやめるよう催告し、それでもAが同居をやめなかった場合、本件賃貸借契約を解除することができると考えます。

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