皆さんこんにちは。弁護士髙砂美貴子です。
先月は年の瀬という時期も相まってか、肌感覚として債務整理や廃業に関するご相談が増えたように感じました。特に印象的だったのは、一年近く前、窮境状態にある会社経営者から事業継続か廃業かについてご相談を受けた際、「早急に資金繰り表を作成してまた来てくださいね」と申し上げたにもかかわらず、その後音信不通となり、結局破産一択とせざるを得なくなったということがありました。初回相談からかなり時間がたってしまったため財務状況が更に悪化してしまい、もはやスポンサーが現れる見込みは絶望的であったこと、再生計画の作成や各金融債権者との調整に必要な期間を持ちこたえるだけの資金繰りもつかない状態にまで病状が進行してしまったことが理由です。
バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍を経て、経営不振に陥った中小企業に対する「処方箋」は質量ともに充実してきています。もはや、弁護士に相談したら「破産一択」という時代ではありません。会社の「病状」について、何を確認してどう「診断」すればよいのか。現在どのような手法があり、どんなことができるのか。「病状」に応じて、どの手法を適用すべきか。時期を逸さず、的確な対応を採っていくことが、我々支援専門家に求められていることだといえます。
とはいえ、その大前提として、経営者自身が自社の経営状態を冷静に把握し、必要に応じて専門家の支援を受ける決断をすることが重要です。このことをご理解頂くために、本稿では、事業再生の意義と早期相談の重要性について解説します。
この記事で分かること
- 事業再生の意義
- 事業再生の基本方針
事業再生の意義
早期に専門家に相談すべきであることは様々なところで言われているところですが、なかなか決断できない経営者も多いのが実情です。そこで、早期に事業再生を検討する意味、メリットはどこにあるのか。3つの視点から整理します。
悪循環から抜け出す
業績の悪化した中小企業は、過剰債務に陥っているケースも多いです。そのため、業績改善のために設備投資をしたり、優秀な人材を採用することも、既存従業員の賃金引き上げもできず、じり貧状態からますます業績が悪化するという負のスパイラルから抜け出せなくなってしまいます。これを、「過剰債務の罠」と呼ぶこともあります。
このような「過剰債務の罠」から脱却するためには、まず①専門家の支援を受けながら、会社自身の自助努力で収益力改善に努めること、②①でも状況が改善しない場合、債権者に対して債務減免を申し入れる段階に進みます。
まだ傷の浅い段階であれば、①の段階でのV字回復が見込めます。躊躇せず、商工会議所、中小企業活性化支援協議会、会計士・税理士等に積極的に相談しましょう。
地域経済の衰退を回避する
会社が倒産すれば会社の社員は全員解雇され、社員とその家族の生活はたちまち窮乏します。また、会社の仕入先・外注先に対する支払ができなくなりますので、連鎖倒産の危険性が生じ、職を失う従業員の数は非常に多くなります。このように、会社が倒産した場合地域経済にも大きなダメージを与え、ひいては地域経済の衰退を招くことになりかねません。地域経済を支えているのは、この記事をお読みくださっている中小企業の皆様であることをお忘れなきよう。
円滑な事業承継を実現する
経営者の高齢化が進む一方で後継者不足が深刻化し、事業承継ができず結果的に廃業、というケースが後を絶ちません。この背景にある問題として、後継者のいない中小企業は財務状況が悪化しているケースが少なくないということが挙げられます。中小企業の経営者は、金融機関から事業融資を受ける際に自らも個人保証をするのが一般的です。そのため、会社の業況が悪化している以上、この連帯保証債務がいつ現実化し、経営者自身がすべての事業債務を弁済しなければならなくなるか、わかりません。後継者として会社を引き継ぐ場合、この個人保証も引き継ぐことが求められるのが一般的ですので、後継者がしり込みしてしまい、事業承継の大いなる障害になっているといえます。
このことから、早期に事業再生に着手し会社の財務状況を改善することが、将来に向けて会社の存続を持続可能なものにすることにつながるのです。
このことから、早期に事業再生に着手し会社の財務状況を改善することが、将来に向けて会社の存続を持続可能なものにすることにつながるのです。
事業再生の基本方針
このように、業況が悪化した場合、早期に専門家に相談するなどの対策を講じることは、経営者として当然求められる経営判断です。この決断が遅れるほど、より深刻な外科手術が必要となり、場合によっては手遅れということになりかねません。
適時適切な事業再生の進め方については様々な意見があるところですが、私が日頃参考にしている実務書に掲載されている考え方が非常に合理的であると思われますので、ここに紹介したいと思います。
※出典:「事業再生・廃業支援の手引き」(清文社、タックス・ロー合同研究会編著)ⅴ~ⅵ頁
- 資金繰りを維持すること
- 会社の基礎体力、収益力を高めること
- 金融機関との間で誠実な交渉(私的整理)を進め、取引先への不用意な情報流出を避けて、事業価値の劣化・風評被害を防止すること
- 元本返済期間の据置き(リスケジュール、「リスケ」と略す)により、上記(1)(2)の時間を稼ぐ
- (リスケで解決できない場合)元本の一部免除(カット)を協議する
- (私的整理が不可能な場合)適時適切な方法で法的整理を行うこと。その場合も、民事再生等を優先的に検討する。破産は最終手段。
- 可能な限り、オーナー経営者が自ら経営を継続することを目指しつつ、必要に応じてスポンサーを探索すること。
- 適切な事業再生等のために、専門家とオーナー経営者の信頼関係に基づく協働が必要不可欠であること
- 金融機関に対し、何よりも誠実性、透明性、公平性が求められること
- (事業再生が困難な場合でも)任意の廃業を検討すること
- 「経営者保証ガイドライン」を積極的に活用して、経営者保証人個人の破産を極力回避すること
具体的な相談先
- 事業再生支援機関リンク集 ※日本政策金融公庫 https://www.jfc.go.jp/n/finance/jigyosaisei/link.html
- 中小企業活性化支援協議会 ※独立行政法人中小企業基盤整備機構https://www.smrj.go.jp/supporter/revitalization/01.html
- 認定経営革新等支援機関について https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/nintei/ ※中小企業庁
- 東京商工会議所/経営支援サービス https://www.tokyo-cci.or.jp/keiei/
最後に
以上が、早期に事業再生に着手することの意義であり、また、事業再生を進めるにあたって守るべき考え方です。
財務状況に不安のある経営者の皆様、これを機にぜひ、上記支援機関等への早期相談をご検討ください。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。